家の戸口や門などには、居住者の氏名を書いた表札が掛っています。
Fさんより改造工事をさせて頂いた際に、この表札を弊社の会長に書いてもらいたいと依頼がありました。
その時に現場を担当した監督が、今まで使っていた表札を大工さんに削ってもらって届けてきました。
表記する文字も4〜5種類見本の文字を書いた上で、気に入った文字を選んでいただける様に早速、手配させて頂きました。
その時点で、表札の木を見た書き手の会長から
「この表札は、上下逆さまで使われていたな」
と言う話が出たのでした。 木の事が分からなければ何も問題なかったのですが、木を見る目が有った分放ってはおけなくなってしまいました。
木は、製材されても樹木として地に生えていた状態で上下を言います。
建て方をする際も、上下をそのまま使い建てるのが普通
です。
でも、これも木の上下を見抜く目がなければ出来ないことです。
木裏・木表も板目の板の、樹心に近い方の面を木裏と言い、樹心から遠い方の面
を木表と言います。
知識として知っていても、木材の上下や木裏・木表を見抜く目は、棟梁に仕込まれたベテランの大工さんの様な方でないと普通
は出来ません。
Fさんは、工学博士の技術屋さんですが、自然派で、ご自身も山歩きが趣味でした。
Fさんのお父さんも山歩きが好きでよく出掛けていた様です。
しかし、今から25年前にお父さんが山に一人で行かれた時に事故死された経験をされ、ご自身も現在、癌で療養中です。
表札は、我々が住所を頼りにお尋ねする時に拠り所となるものです。
真っ先に捜し求めて確認の為に目にするものです。言わばその家の“顔”です。
我々の仕事は、節目に地鎮祭や上棟式を行うように割合、縁起を担ぐ様なところが有ります。この表札を改めて書き直すに当たって、裏の釘穴が今までの場所と反対になるため一応、Fさんの了解をもらう為に古い表札の木の上下が違っていた話をさせてもらいました。
大変考え深げに納得していただき、私共としても嬉しかったのです。
Fさんは、お父さんの死後25年間放置され荒れ放題となった実家を今回改修され住み、ゆっくりと養生に専念する事を決心されたのでした。
築200年と推定される、自分の育った家であり思い出のある家で、昔から使われてきた表札を書き直して、始めた生活がのんびりとした意義深いものになります様、心より願う者です。
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