どこに基準を置くか?3

私の同居していた妻の祖母は、満90歳で他界しました。
その数年前に心筋梗塞になり暫く生死の境を彷徨いました。危機を脱出して元気になった折に、昏睡状態の時、綺麗なお花畑を何度も見たと我々に話してくれました。

人は、死ぬ前に見るのは過去に知り合った懐かしい人であったり、自然の中で最も素直に綺麗と言える花であったりする様です。
そう言う意味でも、人の住む住空間には花を飾ったり、育てたりする場所や友人・知人と一緒になって寛げるスペースが必要なのでしょう。

温泉旅館に行って夜、豪華な会席料理に出会います。たまに行くから美味しいですし、感激もします。でも2日続くと、ご馳走もウンザリしてしまいます。
普通我々の生活は、毎日ご馳走は食べません。毎日ご馳走を食べていたのでは、それは“ご馳走”ではなく日常の食事になってしまいます。普段と違うから喜びや感激はある筈です。

贅沢したいけど、贅沢は欲望のままに際限なく高まる部分と贅沢にも限界があることに何時か気付きます。贅沢な仕様や意匠ばかりでなくていいのです。

お客様の希望で坪80万の杉の天井板を使ったことがあります。
単純に計算して10畳の座敷は5坪ですから天井板の材料代だけで400万になります。
実際には、10畳と8畳の続き間でしたのでそれ以上です。
床柱は、檜の天然の絞り・落とし掛けや床框は、農林大臣賞受賞の材料と凝りだしますときりがありません。

確かにいい材料を使うことは、本物のいい仕上がりにもなりますから大工さんにしたらそんな材料を使って仕事もしてみたいでしょう。
しかし予算が無制限でない限り現代は、合理的な材料選びが最優先です。
勿論、基礎・土台・構造に十分予算を掛けた上で、日常的に最もよく使うところに最大限の予算をつぎ込むそれが本筋だと思います。

家の格調を上げるために、座敷や応接間に予算を掛けられるのは仕方の無い場合がありますが、その空間は年間の使用頻度を良く考えて予算の分配計画をした方がいい様に思います。
家は、元々安全に寝る(休む)が基本です。食事が出来てトイレと風呂がある。最低限何が必要か?そんな家の先ず原点から出発して考えていきますと無駄 が省けます。
最優先すべき最もよく使う場所から考えて、その後に肉付けして行けばいいのです。
音楽が趣味であれば防音性や遮音性、ペットがいるのであれば、出入り口や床材・腰壁の材料の種類や電気コンセントの高さの選択も必要となります。

タイルや石そして無垢板等の材料は、加工と施工に手間と費用は掛かりますが長持ちします。つまりペンキ仕上げやクロス仕上げは安価に仕上がりますが、基本的には、耐用年数は短いのが普通 です。
単価が高くとも耐用年数(使用年数)で割ると実は、初期投資は高いけれども結果 は安くなる場合が多く在ります。単価の値打ちは、やはりその寿命にあると思います。

いいものを安く提供しろ!これは、お客様の側の当然の要求です。使われる頻度が増えない以上値段は簡単には下がりません。
安いものは、品質管理が不十分な物も多いです。「どこに基準を置くか」これは、やはり思案のしどころです。

2006.4.11