映画『世界最速のインディアン』に学ぶ

ニュージーランドの片田舎インバカーギルに住むバート・マンローは、年金で細々と掘っ立て小屋に暮らしています。
40年以上前に買ったバイク、1920年型インディアン・スカウトを愛しぬき、生涯をかけて独力で改造し続けていました。
速度計さえついていないバイクが、いったい最高で何キロ出せるのか?夢実現の為、ライダーの聖地アメリカのボンヌヴィル塩平原へ家を担保に入れ、仲間にも支援を受け、乏しい渡航費で63歳の時に初挑戦するそんな実話です。

苦労してアメリカには辿り着くのですがしかし、安全テストで「前代未聞のポンコツ」と笑い飛ばされ、出走資格なしと宣告されてしまいます。
前立腺肥大で狭心症の持病を持つバートは「5分が一生に勝る。一生より充実した時間だ」と考えるその情熱で周りの者を説得してしまいます。最も周囲には記録への期待など微塵も無かったのですが・・・

ニュージーランドの彼の町でも、このオンボロバイクで世界記録が出せると信じているのは、隣に住むトム少年だけです。
このバート(アンソニー・ホプキンス)とトム(アーロン・マーフィー)の友情と信頼関係は、心和ませます。

1000cc以下クラスで、63歳の老ライダーのバート・マンローが出した世界最速記録は、未だに破られていません。この事実には説得力があります。

最小限の予算で有り合わせの材料で改造・改良していく、老エンジニアの姿は、我々に多くのものを教えてくれます。
的確な知識と情熱そして熟練した技能。
品質やデザインに重きを置くより技術を磨き自分の作ったものに絶対の信頼と自信を持つ。
この当たり前に思えることが、実際に我々に出来るでしょうか?
材料は、ゴミの山の中にいくらでもあるのです。それをどう活かし再生するかは、優秀な職人の技です。

私は、この映画を周辺の人達に観る様に薦めました。
地味な映画で興行性があまり期待できなかったのでしょうか、限られた映画館で限られた時間にしか上映されていませんでした。

薦める理由は、2つありました。
組織は無くとも“技術力”を磨けば本物を作る事が出来る。
年を取って、貧乏でも“信念”を持ち続けるバートの熱い情熱に打たれたからです。
孤独なバイクバカの親父には、“職人”の誇りと自信が漲っていました。
そして、その実力を客観的に知る為にレースに参加したのです。

挑戦し続ける、この職人さんの姿勢に我々も学ぶところが多いと思いました。
歳の行っただけ体力は落ちますが、年齢を重ねた分体験は増えているのです。それを確実に活かしていけば、以前よりは良くなって行くはずです。その事を教えられます。

人間もバイクもポンコツでも実力を発揮してしまう“ヤル気”の起こす奇跡を見せ付けられます。

2007.3.2