スペイン映画『ボルベール(帰郷)』を見ました。

この映画は、女達の墓掃除のシーンから始ります。
夫が愛人と山小屋で同衾中、火を付けて二人を焼き殺し妻はそのまま失踪。二人の娘は、両親が山小屋で死んだと思っていました。
失踪した母親から見れば孫に当たる15歳の娘が自分の父親を刺し殺します。小さな家族に次々に襲い掛かる不幸な事件。家族は、敵なのか味方なのか?美しく誠実に生きることを拒む男と女の存在。

この話は、死んでしまったのであれば、生き残ったものが逞しく生きなければどうする。死んだ者は、生き返らない。生きている者で、上手く暮らして行こうと言い切るようです。
夫婦は他人だが、親子や姉妹は血の繋がりがあるから打ち解けて協力し合えるとも言いたげです。家族に裏切られた者が、家族の絆に助けられます。

内容は、浮気に対する嫉妬殺人であったり、母の夫であっても実の父親ではない男から体を求められて挙句、刺し殺した15歳の娘。それをかばう母親は実は娘を近親相姦で出産していたなど、それは、それは深刻な話なのに失踪していた母親の“死んでいたはずの親の帰郷”に対する娘や孫の受け止め方、驚きと喜び。人間社会に巣食う問題点をテーマにしながら、逞しい二人の母親と女達の明るい生き方に救われる映画です。

世間に意外によくある話しながら、大概は打ちのめされてしまう出来事を深刻になっているより、生きることに専念する事で吹き飛ばしたい。
この映画は人に逢う際の挨拶のキッスの音が軽快に響く点でも出色です。

舞台は、スペインのラマンチャ。監督は、べドロ・アルモドバル。主演は、スペイン、マドリード出身のべネロベ・クルス。

個人生活が中心になり“家族”がますます疎遠になる中、家族の意義が深く問われます。

2007.7.9