最近の住宅は、「気の流れ」が悪いとよく聞きます。洋風の高気密・高断熱の家が増えているので当然です。
先進国では、“日本食”ブームなのだそうですが、一方我々の食生活は洋風です。
“キレル”若者達、いや若者達だけではないかもしれませんが、この“キレル”に近年の食生活の変化を挙げる人がいます。
生きていくのに食物以上に我々が摂るのが“空気”です。体積では比較にならないほど大量
に摂取します。
あれほどオープンだった日本の家屋が、洋風化して閉鎖的になっています。
デッキを使ってオープンな雰囲気を演出したり、吹き抜けでそれらしい家はありますが、「気の流れ」は、窓を開いたときに風が流れ、通
る事が条件です。
風通しがいいとは、空気が停滞したり、淀んではならないのです。
住む建物が変わったことが、日本人の性格を変え、文化を変えていると指摘する人もいます。都会には、和室つまり畳の部屋が全く無い間取りの家があります。
今、卓袱台(ちゃぶだい)で座って食事をしているお家が日本にどれくらいあるでしょうか?
テーブルに椅子に掛けて食事をするのと卓袱台で座って食事をすることの違いは、姿勢の違いです。つまり、椅子は足が自由に動かせる分、楽ですが体勢が落ち着かなくなる傾向にあります。
教育者の森信三先生は、“立腰”を言われました。背筋を伸ばせと言うのです。それと靴を脱ぐときは、揃えろです。
立腰は、“寺子屋”の様に和室で正座をすれば可能です。今の日本の家に和室が無い以上、正座をする機会はまずありません。小学校を“寺子屋”に戻すと言えば、反対がでるでしょう。
日本本来の姿は、西洋化の生活スタイルの導入で、すでに普通
では無く逆に不自然な教室の態勢となるからです。
林間学校で宿坊に泊まった子供達が、騒がしいのに食事で座卓に着くと静かになると聞いたことがあります。椅子に一人づつ楽に座るのではなく、拘束されて座る分、緊張するためと思われます。
手に入れた家の住宅ローンを返すために夫婦共稼ぎ。日中は締めっぱなしの家。子供が帰ってきても、そのままエアコンを付けてしまう。風を通
すこと自体が無いのです。
これではこの家は何となく『気の流れ』が滞ってしまう気がします。
空気は、確かに見えません。見えませんが、確実に存在しています。
それが判るのは、流れる時、移動する時、風となってすれ違う時です。
我々が過ごす空間、風通しのいい家庭・風通しのいい職場・風通
しのいい学校・30兆とも60兆とも言われる分子から成る我々は、細かい構造で出来ているだけに食料は勿論のこと空気や水の影響だって逆に受け易いに違いありません。
日本と言う文化圏で日本と言う気候風土で必要なことは、長年の間に培ってきた生活スタイルをそう簡単に変えてはならないと言うのが結論のように思います。
でも習慣化した現状を元に戻すことは難しいです。
社会で起こっている問題が、気の流れの悪さに起因していると言っても具体的に証明出来なければ、誰もその気にはなりません。しかし、建築屋としては、なるべくお住まいになられる方の幸せを願って間取りやデザインを考えなければならないでしょう。それが、プロの仕事の遣り方である様に思います。
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