感謝する心

建築屋は、地鎮祭や上棟式を神事(主に神事であって仏式も他宗教でやる場合もあります)としてやる関係で信仰心とは関係なく節目ではキッチリそんなことを遣っておきたいと、多少こだわってしまいます。

建築業は、危険な仕事です。高所作業も在りますし、現場で大型の重機(杭打ち機等)も頻繁に出入りしますし、クレーンによる大量 の材料の吊り上げ作業もあります。
風の強い日があったり、台風にでくわしたり、炎天下で急病人が出たりと・・・ 天候や環境にも左右され易く、縁起を担ぎたいのです。

ナカイ建設は、無事故・無災害を継続していますが、私も以前居た会社で2度死亡事故(どちらも転落)を経験しています。同時にその会社で職人さんの怪我や骨折や交通 事故に沢山出会いました。
年間で延べ労働者数は、何万人にもなる労働生産性の高い業種です。それに出入りする車も多いですから、事故が起こらない方が不思議なくらいです。

お世話になった土木屋の元社長が、腹部の大動脈瘤破裂で突然亡くなりました。お彼岸で墓参りに行っていて突然倒れたそうです。お彼岸であったお蔭で近くに何人か知った人が居たようで、携帯電話で救急車を呼んでもらったそうですが、腹部に大量 の出血があり助かりませんでした。
墓掃除をし、供花する。身内が死者を思い出し、有限の人生の貴重な時間を割いて墓参りをお勤めの様にされる方が沢山います。元社長もその一人だった様です。
お彼岸に奥さんの墓の近くで倒れた事も劇的でしたが、土建屋らしい規則正しい生活姿勢を貫いた様です。
この社長も口は悪いし、議論好きでした。いつも長々と、よく話をさせてもらいました。
今年、誕生日が来れば、満80歳となる予定でしたし、目標は100歳であったそうです。
私も口の悪い、好敵手を失い残念な思いです。
お悔やみにお伺いして、間近で遺体と対面し、穏やかな死に顔を見て安心しました。

『明日ありと思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは』
(明日があると思う心は、はかない花ににている。夜半に嵐に散るかもしれないのに)
親鸞聖人9歳当時の吟詠と言う説のある短歌です。

バリバリの土木屋で、一時いい事務所を持ちいい車に乗った人の晩年も、平穏な墓参りを繰り返す日々であったのです。
しかし、明日があると前向きに いやひょつとすると楽天的に生活していたに違いない人生の先輩の自然体のお別 れに教えられ様な気がします。

「感謝する心」は、口数の多い、口の悪い、議論好きの社長から最後の最後は、無言で学んだ気がします。

2009.3.16