『兄弟』(一緒に泣き、笑い、愚痴って)

ライムライトは、電球が普及する以前に舞台照明に用いられた照明器具らしく、スポットライトを浴びると言う事なのか?“名声”の代名詞でもある。
映画『ライムライト』でチャプリン演じる落ちぶれた道化師カルヴェロが自殺を企てたテリー(クレア・ブルーム)と言う美しいバレリーナに言う台詞が
「人生には三つのものがあればいい。希望と勇気と少しのお金」です。

私の姉が、闘病生活を始めて2年になります。
彼女にとってあればいいのは「時間」でしょう。今年65歳ですから現代風にはまだ若い。

丹波市柏原に行った時、太鼓やぐらの案内のところに書かれていた文章があります。
『人間にとって「時間」は「希望」であり「忠告」であり、はたまた一種の「制約」でもある。「日暮れて道遠し」と古人は時間の制約について語った。得難いのは「時」であり失い易いのも「時」であると古人は言った。「歳月人を待たず」と時間の忠告にも耳を傾けた。しかし「待てば海路の日和かな」と時間が希望であることに就いても語っている』
太鼓やぐらは、時報であり火事や大水などの警報であり登城の合図として使われたそうです。当時は城下一斉に共通 の時告げがされていたのです。

私は、三人兄弟の末っ子として育ちましたが両親が居なくなって兄弟の居る事を改めてありがたく思っています。
両親の年忌で集まり、互いの甥子や姪っ子の祝い事でも集います。
兄弟あればこその交流が有るのは、悪く在りません。同じ親に育てられ同じ家庭で同じ境遇で育ったのですから互いに癖や性格を知り尽くし、理解できて当たり前です。

我々家族の場合、三人兄弟が結婚して姉が、両親と同居をして最後まで面 倒を見てくれました。看取ってくれた事で我々弟の兄弟が姉に感謝しているのです。
その頑張って介護してくれた姉の調子が悪くなり、ここ2年余り入退院を繰り返していて少し懸念しています。

今年の米国アカデミー賞で最も評価された「スラムドッグ$ミリオネア」を見て来ました。インドのスラムで同じ境遇で育った兄弟。孤児となり同じスラムの孤児の女の子とも連帯意識で固い絆を結びます。諦めないとスローガンを持ってテレビのクイズ番組に挑みます。
この三人に共通しているのがインドの貧民窟育ちと言う事です。共通 の土台があります。
この映画を見ていて感じる側面は、その貧乏を知っていて少々ではへこたれないエネルギーです。何もかも失い、失う物のなくなった敗戦後の日本にもそんなエネルギーがありました。中国やインドの経済興隆が今、どん底で喘ぐ世界経済の回復の“鍵”だと言われています。その強さは反面 、中国もインドも真の“貧困”を知っている国民が多い所にあると指摘する人が居ます。
一方、これからの日本の経済復興の中心的役割を担う日本の若者達は、本当の“貧困”を知りません。逞しさが違います。
アルベール・カミュ著『異邦人』で「貧困は必ずしも憎むべきものではなかった。なぜなら太陽と海は決して金では買えないから」と主人公ムルソーに語らせています。しかし、現在の中国はそれすら買ってしまう勢いです。

私の姉は、昭和19年生まれです。その点で一部戦中派と言っていい部分が在る訳です。その逞しさでこの闘病生活を時間貧乏でも上手く乗り切ってもらいたいと思っています。

2009.4.22